寿星の叫びに、朔耶は驚きの表情を浮かべた。
言われた十六夜は何も反論しない。
黙って寿星を見つめるだけだ。
「アンタならヤスの兄貴を助けられたんだろ?
それだけの力、持ってんだろっ?!
何で殺したんだよ! 答えろよっ!!」
「…それしか、救う術は無かった」
「嘘だッ!!」
「事実じゃ。
【魔】に乗っ取られてからの時間が長かった為
魂が大半喰われておった。
【人としての念】が残っている内に
手を打つ他無かったのじゃ…」
「だからって…」
「もう止めろ、寿星っ!!」
「兄ぃ…」
「ヤスさんを救えなかったのは俺達の方だぞ。
十六夜を責めるのは…筋違いだ……」
「……」
魂が全て食われてしまう前に…。
ヤスの血の涙を、十六夜は感じたのだろう。
だからこそ、心を鬼にして行動に出た。
こうして責められるのも、解っていた筈だ。
「済まなかった、十六夜…。俺達は……」
「…早く行け。もう直ぐ、街が動き出す。
そのままでは人目に付いて困るのだろう?」
「あ…あぁ……」
今はヤスを弔うのが先だ。
朔耶はそう判断し、未だに納得いかない寿星を
半ば強引に自宅へと連行させた。
* * * * * *
騒動を感知したのであろう。
帰宅した際には門の外で乾月が待っていた。
「師匠…」
「ヤスが、逝ったか…」
「…はい」
「……」
乾月にとってもヤスは可愛い弟子だった。
この様な形での再会は勿論、避けたかった事であろう。
「お前達2人が無事で良かった」
「師匠…」
「……」
そのまま何も言わず、3人は境内に入った。
* * * * * *
雨脚が強くなる。
静かにヤスの供養を終えると
乾月は朔耶と寿星から事の成り行きを聞いた。
「相手は【影喰】であったか」
「はい…」
「それでは、お前達じゃ太刀打ち出来なかったな。
奴を仕留めるにはそれ相応の【武器】が必要だ。
呪符で抑えが利く程、生易しい相手ではない」
「……」
「ヤスは呪符使いとして良い腕を持っていたが…
流石に今回は焦りが出たのだろう。
気を充分に練らなければ呪符は効力を発揮出来ない」
「……」
「ヤスは喰われながらも、懸命にお前達を守ろうとしたんだな。
お前達を喰わせない為に、最期迄 必死に戦い抜いたんだろう…」
「ヤスの兄貴……」
「ヤスさん……」
「【影喰】は影に潜み、狙った人間の体を喰らう。
体を手中に収めたら、宿り主の魂を食らう。
そして又、新たな獲物を狙う。
闇夜で【影喰】と相対するは…自殺行為だ」
「だからあの鳩…あんなに光り輝いてたのか…」
「鳩?」
「えぇ、多分式神だと思いますが…」
「十六夜、か」
「…はい」
「成程な」
乾月は深く溜息を吐き、朔耶と寿星を見つめた。 |