So in der "SOYA" Wir・2

南極大陸での越冬は最初から
『厳しい』の連続であると
皆が当然
承知の上だと思っていた。

南極観測隊発足時に
越冬ツバメで呑んでいた時、
初めて星野さんから
『越冬志願や志願者の存在』を
聞かされた時にも
正直、俺は半信半疑でいた。

身内に南極を体験した者が居た所為か
その壮大さと厳しさが
幼心に深く刻み込まれていたからだ。

俺達がこれから挑むのは
単なる外国ではない。
正しく【神の領域】なのだ。
俺が在学中、山岳部に
身を置いていたのも
数多くの山を体験しなければ
親父が話してくれていた
【ボツンヌーテン】には
到底辿り着けないと
考えていたからである。

しかし…この中で
俺と同じ様に考えていた奴は
一体どれ位存在していたのやら。
鮫島さんは嵐山は楽観的だし
横峰や万平はそれ程
気乗りしていなかった
と云う雰囲気を醸し出している。
『南極大陸に挑む』と云う目標を
掲げてはいるものの…
出発点からしてバラバラだったのだ。

俺は諦め半分の状態だったが
発起人である星野さんは
そうでもなかった。
寧ろ、この状況を
誰よりも楽しんでいる様な節さえあった。

* * * * * *

「…又ですか?」

部屋に訪問すると、早速と云うか
既に嗅ぎ慣れた消毒薬の臭い。
左の目の下を赤く腫れさせて
何とも情けない表情で此方を見つめる。

「何回喧嘩すりゃ気が済むんですか」
「口で言っても解らないからよぅ、
 手で訴えるしかねぇじゃないか」
「内海さん、一応記者でしょ?
 そんなに喧嘩っ速くて大丈夫なんですか?」
「記者か否かって関係有るの?」
「…有りますよ、そりゃ」
「大学教授なら大丈夫かな?」
「同じですよ。喧嘩は駄目です」
「体力有り余ってるんだろうな」
「どっちが」
「アッチが、さ。流石は技術職」
「……」

内海さんは鮫島さんと
よく取っ組み合いの喧嘩をしている。
星野さんが言うには『ガス抜き』で
互いに解った上での行為らしい。

喧嘩の理由も大抵が下らない事で
それ位で切れる鮫島さんもだが
応じる内海さんも大人気無い。
俺はそう思っていた。
しかし…。

「俺と鮫島さんってさ、
 口よりも暴力の方が解り合えるのかもな」
「…何ですか、それ?」
「理論派じゃないって事。
 原始的って云うのか」
「内海さんも、ですか?」
「俺、結構感情的な所有るよ」
「はぁ…」

彼の事は何でも理解してると
思っていた自分にとって
今まで気付かなかった
意外な一面を知る内に…
何とも羨ましい様な妬ましい様な、
そんな複雑な感情に
駆られてしまうのであった。

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