いつの間にか眠っていた様だ。
薄らと瞼にかかる朝陽と鳥の囀り。
隣では満足そうに眠る朔耶。
そうか…。終わったのだな。
そのままの体勢で私は天井を見つめる。
平 朔耶と結ばれた時も、こんな風に空を見上げた。
薄暗い森の中、それでも私には光輝いて見えた。
「…朔耶」
私は、どうする事も出来なかった。
目の前で真っ二つに斬り裂かれた彼の者の体に縋り付き
泣き叫ぶ事しか出来なかったのだ。
敵を討つ事も叶わなかった。
朔耶の後を追う事も出来なかった。
私の中で、全てが終わった瞬間だった。
「……」
悲しみはいつしか私を変えていった。
人と触れ合う事に脅え、生命が消え逝く様を呪いさえした。
それでも人は私の持つ【力】を求め、行使しようとする。
ひたすら逃げ続け、それでも捕まり、暴行を受け、でも拒絶し…。
街に降りて来てからは、ずっとそれの繰り返し。
終わりの無い罰の世界。
平 朔耶を救えなかった私の罰……。
* * * * * *
『もう良いんじゃないのかね』
流れ込む十六夜の心の声に耐え切れなくなったのだろう。
朔耶を起こさない様に気を配りながら、【村雨】が声を掛ける。
『お前さんはもう充分苦しんで来たじゃないか。
平 朔耶だって、お前さんの事を恨んだりはしてないって』
「そうじゃない…。そうじゃないんだ……」
『?』
「私は、私が許せない…。
愛する朔耶よりも使命を重視した。
あの時の私が今も許せないだけだ……」
『でも現にお前さんしか居ないんだぜ?
【陰陽鏡】を行使してこの都を死守出来るのは』
「今の私にこの【陰陽鏡】は行使出来ぬ」
『どう云う事だよ?』
「この【陰陽鏡】は陰と陽が交わってしまっている。
私の属性は【陰】だ。私では【陽】の力を行使出来ない」
『それって…最悪じゃないのか?
作り出した奴は何を考えてやがったんだ?』
「…それでも、何時かは戦わなければならないだろう」
十六夜は眠っている朔耶の顔をそっと見つめた。
何とも言えず、慈愛に満ちた優しい微笑だった。
「ありがとう、朔耶。
お主と逢えて、私も覚悟を決める事が出来た」
『やはり…その道を選ぶんだな』
「あぁ……」
『まぁ、お前さんらしい選択だよ』
日本刀の姿を維持したままの【村雨】が少し笑った様な気がした。
『朔耶も又、選択しなければならないな。
それはお前さんも止められない。
解っているだろうが』
「解っておる…。
それが【蓮杖 朔耶】だと云う事も……」
どれ程それを拒もうとも、朔耶は自ら戦場に躍り出る。
十六夜には解っていた。
それが【蓮杖 朔耶】と云う男だと言う事を。 |