陰と陽が交じり合う。身体の奥深く迄。
心の奥から叫んでいる。まるで獣の様に。
今はそれで良い。何も考えなくても良い。
何かが生み出され、激しく動き出す。感情が叫び続ける。
時間の流れも感じられない。唯、相手の存在しか感じない。
何度も弾けて、飛んで、また結び付いて、生まれていく。
ゆっくりと、溶けていく自分は何処に向かっているのだろうか。
* * * * * *
温かい珈琲を手渡しながら、繊は神楽と話を続けていた。
先程見た神楽の先見について、である。
「激しい光と影の交わる先、激しい憎悪と殺意…か」
「えぇ。あんなに強い憎しみは生まれて初めて感じました」
「尋常じゃない恨みを抱いている奴が存在してるんだね。
しかし、誰が一体それ程の恨みを?」
「……」
「神楽?」
「狙われているのは、十六夜さんかも知れません」
「え? 何で?」
「あの方は…まだ私達に大切な事を隠している気がします。
それこそ、この街の存亡に関わる様な事を」
「…一理有るかも知れないな」
「繊……」
「誤解しないで、神楽。アタシは十六夜を疑ってる訳じゃない。
だがアイツが隠し事しているのは感じるんだ。
誰だって言いたくない秘密の一つや二つ、
持ってても可笑しくないさ。
ただ、アイツの場合は…」
「そうなんです。あの方一人で解決出来る問題では無い」
「…厄介だな」
「繊……」
「でも、どうしてだろう。アタシには何となく解る気がする」
「何がですか?」
「十六夜が隠し事をする理由」
「本当ですか?」
「勘だけどさ。十六夜はアタシ達に話したくないんじゃない。
朔耶に知られたくないんじゃないかな」
「朔耶さんに…?」
「十六夜の、朔耶に対する想いは半端じゃない。
何度も生命を投げ出そうとしてるし、実際にそうしたとも聞いた。
其処迄しても護りたい理由が、十六夜には確かに有る」
「成程…。言われてみれば確かにそうですわね」
「きっと十六夜は朔耶を護りたいだけなんだ。
でも、きっとそうしなきゃいけない理由に
神楽の見た【憎悪と殺意の主】が関係してるのかも知れない」
「私達は…如何すれば良いんでしょうか?」
「正直、解らないよ。ただ…乾月さんには伝えてみる?」
「乾月さん、ですね。確かに適任ではありますわ。
何でもその昔は十六夜さんと御一緒されていたとか」
「少なくとも【憎悪と殺意の主】の正体だけは掴んでおかないと。
何かとんでもなくヤバい感じがするんだ……」
「そうですわね……」
気を落ち着けようと珈琲カップに口を付けるが
手先がブルブルと震えている事に繊は漸く気が付いた。 |