朔耶の特訓が開始されて3日が過ぎた。
傷付いた仲間達の回復も芳しくなく
状況は更に悪化していた。
乾月は責任を感じてか
一人で街を彷徨い、【村雨】の動向を探っていた。
『いざと云う時は封印しか有るまい。
街を救うには最早それしか…』
その日も同じ様に街を歩く。
何事も無い様な表情を浮かべて
しかしその視線は刃物の様に鋭い。
乾月の目にソレが留まったのは丁度そんな時であった。
『あれは…!』
足早にその姿の後を追う。
恐らく尾行は気付かれているだろう。
しかし、乾月にとっては
然したる事ではなくなっていた。
* * * * * *
「探したぞ、【妖刀 村雨】」
愛用の扇を翳しながら乾月はその男の前に姿を現した。
『…お前、名は?』
「乾月 猛。お前の探す【妖刀遣い】が一人。
【兼元】の契約者よ」
『…ほぅ。で?』
「今此処で、お前を封じる」
『…出来るのか? たった一人で』
「私を見縊るな」
乾月はそう吐き捨てると扇に神経を集中させる。
やがてそれは静かに緑色の光に包まれ
ゆっくりと日本刀の形状に戻っていく。
乾月の【妖刀 兼元】が姿を現したのだ。
『これで4本目…。
いよいよ、揃ったと云う事か』
【村雨】は何か思う所が有る様に呟いた。
しかし乾月の本気を確認すると
自身も静かに鞘の刀を抜こうと手を添える。
『私が封印されるのが先か。其方が絶命するのが先か。
此処で雌雄を決するも好し』
「弟子の痛み、苦しみ…
今こそ師である私が晴らして見せよう」
静かに上体を落とし、構える。
乾月の目にはもはや【村雨】しか映ってはいなかった。
* * * * * *
「やっぱ、り…まだ、重い…な!」
相変わらず朔耶は【虎徹】に振り回されたまま。
その重みに悪戦苦闘するだけだった。
悪戯に時間は過ぎていく。
焦りが更なる焦りを生じさせる。
「はぁ〜!!」
大きく息を吐き出し、地面に大の字で寝転がる。
冬間近の空は雲一つ無い青空だった。
「…何時以来だろうな。
目的のハードルがデカくて
こんな風に嫌になっちまったのは」
挫折を最初に知ったのは
乾月の元へ弟子入りして間無しの頃。
自分の能力をコントロール出来ず
庭木を酷く折ってしまった時。
自身の力を恐れ、憎んだ
あの日の事を不意に思い出した。
「あの時、師匠に言われたっけか…。
自分の力を左右する為の答えは
自分自身の心の奥に有るって。
いずれ判るって言われたけど
俺、今でもよく解ってないかもな…」
地面に埋まったままの【虎徹】を見つめながら
朔耶は乾月に言われた
言葉の【真意】を必死に探していた。 |