「十六夜…」
「【妖刀】に打ち勝つには【妖刀】での攻撃しかない。
【妖刀】に対抗出来るのは…
【妖刀】しかないのじゃ」
十六夜はその為に自分の【虎徹】を朔耶に託した。
自身が【村雨】に狙われるかも知れない。
そんな危険性を解っていながら…。
「お主自身の力、心で
先ずは【虎徹】を認めさせるが良い。
【虎徹】は自身が認めた人間に対して
忠実な仕事を果たす。
必ず、お主の力と成る筈じゃ」
「十六夜…。解った。
俺は必ず、あの【村雨】に勝ってみせる。
その為にも先ずは【虎徹】に認められる様
全力を尽くす!」
「…それで良い」
十六夜は漸く笑みを浮かべた。
いつも見せる優しげな微笑。
「十六夜…」
「ん?」
「ありがとうな。お前はいつも俺を守ってくれる」
「…信じているからな」
「じゃあ、その心に答えないとな。
俺も男だ。何時迄も守られるのは性に合わねぇ」
「…その言葉、忘れるな」
陽は既に地平に沈もうとしていた。
夕日に照らされる十六夜の背中は
やはりあの日の時と同様、大きく見えた。
* * * * * *
「な、何でこんなに重いんだよ!
全然…持ち上がら、ねぇじゃ…ねぇか!!」
十六夜が姿を消した直後、
【虎徹】はいきなりその本性を現した。
まるで巨大な鋼鉄の塊の様な重量に変化したのだ。
勿論見た目は何も変わっていない。
認めていない人間が【妖刀】を手にすると云う事は
この様な変化を生み出すのだろう。
「地面に…減り込んで、るんですけど…?
これを、一週間で…
自在に、扱うんだよな…!」
ウンウン唸りながら持ち上げようとするが
朔耶の意思とは関係無く
【虎徹】が地面から起き上がって来る事は無い。
「漬物石かよ!!」
どれだけ悪態を吐こうが何も変わらない。
惨めな迄に振り回される。
「十六夜はあんなに軽く扱ってたってのに
契約してない奴だと…こうなるってか?」
無理に力を篭めている為か
先程の戦闘で痛めた筋肉が悲鳴を上げる。
歯を食いしばって耐えても
【虎徹】はウンともスンとも答えてはくれない。
「式神の鳩ちゃんは素直だってのに」
陽はスッカリ落ち、いつの間にか月が出ていた。
それでも尚、朔耶は諦めず
地面に減り込んだままの【虎徹】に悪戦苦闘していた。
* * * * * *
朔耶の奮闘をそっと見つめる影。
何も言わず、ピクリとも動かず。
やがてその影は、視線を静かに上へと動かす。
明るく輝く月を静かに見つめる。
「今宵の月は…何とも力強い」
光の強さに、未来の朔耶の姿を併せ見る。
十六夜には寸分の迷いも無かった。 |