焦 り

「何用だ?」

いつもと変わらない表情とぶっきら棒な物言い。
思わず苦笑を零しながら乾月は十六夜の髪を撫でる。

「そう言いなさんな。今日はお前の力を借りに来たんだ」
「何?」
「久々にお前の【腕前】を見せてもらいたい」

一瞬、乾月の目が鋭くなる。獰猛な狩人の様な視線。
その表情だけで十六夜は何かを察したらしい。
同じ様に苦笑を浮かべながら静かに軽くだが頷いた。

* * * * * *

「あれ?」

寿星が何かを見付けたらしい。
怪しげな気配を背負う人影。それも複数。

「兄ぃ、アレって…人間、じゃ…」
「ねぇな」
「やっぱり」
「見付けたからにはヤるしかねぇか」
「しかし数多いッスよ。20体は有るんじゃないですか?」
「…確かにな。でも、今ヤれるのは俺達しか居ねぇ」
「兄ぃ…」
「覚悟、決めるぞ」
「…はいな!」

少しずつ距離を詰める程にその姿がハッキリと確認出来た。
打ち捨てられたマネキンの中に悪霊の類が入り込んだのだろう。
無表情ながらも光る目に只ならぬ【悪意】を感じた。

「だから何でも捨てるなと…」

チッと舌を鳴らし吐き捨てると
朔耶は先頭集団の中に身を躍らせる。
そのまま足技を駆使してマネキンの頭部を蹴り飛ばす。
寿星も又 器用に攻撃をかわしながら
手製の呪符を貼り付けていった。

「あれ?」
「何だ?」
「札の効きが悪い…」
「何だって?」
「貼ってるんッスけど…止まってないッスよね?」
「あぁ、動きっ放しだ」
「…ヤベェ。俺、霊力切れたかも……」

依頼を終えて帰宅の徒につく最中の出来事である。
寿星の霊力が尽きるのも無理はない。
其処迄配慮出来なかった事で更に朔耶の苛立ちが高まっていく。

『何やってんだ、俺はっ?!』

襲い掛かってくるマネキンの頭部をパンチで粉砕する。
それでも、動くマネキンの数を減らした事には繋がらない。
怒りや憎しみをバネにした所でこの程度の破壊力止まりなのだ。

「ざけんじゃねぇぞ、テメェ等っ!!」

怒号と共に放たれる朔耶の気の圧力(プレッシャー)。
流石のマネキン達もこの気の圧力には多少ながらも動揺したのか、
少しずつ動きが鈍くなっていく。

「この程度でな、参ってられねぇんだよ!
 俺はな、強くならなくちゃいけねぇんだっ!!」

まるで自分に言い聞かせる様に。
朔耶は怒号を上げると更にマネキン軍への攻撃を強めた。
全てを粉々に打ち砕くかの様に。

それは余りにも【無謀】な戦いに見えた。

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SITE UP・2013.09.20 ©森本 樹



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