明らかに先程の戦いとは動きも何もかも変わっていた。
眠っていた朔耶の【戦士】としての資質が一気に花開いた。
そんな印象すら受ける。
今の彼の戦いは【武士】のそれではなく、【退魔師】としての物。
自由自在に変化を繰り返しては六条親王に襲いかかる【村雨】が
今の朔耶の戦いを如実に表していた。
だが、まだ届かない。
六条親王の右手に握られたままの【陰陽鏡】には。
「答えてくれ、【陰陽鏡】!
十六夜の為にも、お前の力が必要なんだっ!!」
「無駄な事を!」
「無駄な物なんざ一つも無ぇよ!
今迄の戦いから、俺はそれを学んだ!
無駄だと切り捨てた時に、
自分の道を自分で潰すんだってなっ!!」
諦めない。それが、今迄の戦いで朔耶が学んだ事。
だからこそ、今こうして戦える。
十六夜の為に。
昔は届かなかった背中を、今は自分が護る為に立ち向かえる。
「打ち砕いてくれるわっ!!」
六条親王の霊力が飛躍的に上がっていく。
明らかな憎しみの色を浮かべた瞳。
憎悪が、彼の力を底上げしていくのが判る。
「忌々しや、朔耶っ!
貴様が産まれねば九条は余だけの者だったのに…っ!
あの女性(かた)の忘れ形見、
永遠に余だけの者と…っ!!」
「何っ?!」
「貴様さえ存在せねばっ!!!」
「くっ!!」
凄まじい剣圧に押されながら、朔耶は一歩も退かなかった。
気と気の鬩ぎ合いが激しい火花となって打ち合い続ける。
気迫で押し返そうとするが、
六条親王はそれ以上のプレッシャーを与えて来た。
憎しみだけが六条親王を突き動かしている。
今の朔耶が窺い知れない、過去の因縁。
半歩ずつ、朔耶の足が圧力に押されて下がっていた。
『朔耶! これ以上は危険だ。受け流せ!!』
「今更出来るか! それに、こんな膨大な気だ。
受け流した先が
どんな被害を受けるか判ったもんじゃねぇ!!」
『しかし…その前にお前の体が…っ!!』
「俺を信じろ、【村雨】! 俺は、負けたりしねぇ!!」
朔耶は更に己の気を練り上げた。
僅かではあるが、六条親王の圧力を押し返す。
そう長く保たない事は百も承知。
それでも、彼は敢えて行った。
自分の護るべき存在の為に、退く訳にはいかないのだから。
* * * * * *
「此処に居たのか、弓ちゃん」
「あぁ、白露ちゃんか…」
「お勤め、ご苦労さん」
「ん…」
帰路に着こうとする弓に声を掛けたのは、
夫である白露であった。
蓮杖神社が戦場になると予期していた弓は
事前に白露を神社から遠避けていたのだ。
朔耶の戦いの邪魔にならぬ様に、と。
「朔耶の奴、強くなった。でも、相手が悪い…」
「弓ちゃん、朔が負けると思ってるのかい?」
「……」
「朔は、勝つさ」
「白露ちゃん…?」
「彼奴は今迄どんな喧嘩でも相手に負けた事が無い。それに」
「それに……?」
「彼奴は、俺達の自慢の息子さ。少々道楽が過ぎるけどね」
「白露ちゃん……」
「俺達の息子が、こんな所でくたばって堪るかってんだっ!!」
唸る様に吐き出された父親としての本音。
二人は信じていた。朔耶の勝利を。 |