親 友

十六夜が目を覚ましたのは術後1時間が経ってからだった。
ボンヤリとした視界の中、必死に朔耶の姿を捜そうとしている。

「気が付いたか、十六夜?」
「けん…げつ、朔耶…は…?」
「……」
「こたえて、くれ…。さくや、は…?」
「六条親王と交戦中だ。【陰陽鏡】を取り戻す為にな」
「っ!!」

傷口を抑え、十六夜はベッドから抜け出そうとする。
乾月は慌てて制止し、再び横にならせようとするが
十六夜は聞かない。

「無茶だ。傷が開く!」
「さく、やの…もと、へ……」
「十六夜!」
「もう…もたない、こと…は、わかって、いる……」
「十六夜……」
「乾月…、頼、む……。朔耶の、元…へ……」
「……」
「たのむ…けんげ、つ……」

十六夜はひたすら懇願している。
朔耶と共に戦う。
それがどれだけ無茶な事かは解っている筈なのに。

「たのむ…。けんげつ、
 親友(とも)として、たの…む……」
「……初めて、だね。
 こんな風に私を頼ってくれたのは」

乾月は泣いている様だった。
声が所々震えている。

「それがお前の望みであるなら、叶えよう。
 他ならぬ親友の頼みだ…」
「ありが、とう…けんげつ……」

既にたどたどしい会話しか出来ない状況の十六夜だったが
それでも彼は微笑んでいた。

「…すまな、かった……」

小さく、十六夜が呟く。
その謝罪は今を指しているのか。それとも。

「…らしくないよ、十六夜」

乾月もそう返すのが精一杯だった。
だから言葉ではなく、彼の体を抱き起して
立ち上がらせる事で返答したつもりだった。

* * * * * *

火産山に舞い降りた鳩の式神の存在は鳴神も確認していた。
そして彼はその元を、
式神を送り出した相手の存在も見付け出していた。

「認めたくないが、
 ルーツは流石に彼奴の方が何枚も上らしい」

鳴神のボヤキにその人物は小さく笑い声を零した。
人影こそは自分よりも遥かに小さいが、
纏う気はかなり強い物を感じ取る。

「それだけの力を持ってしても、
 野郎の相手は無理って事か」
「喧嘩するにもそれなりの条件ってのが必要なのさ」
「だから場外乱闘で手を貸した訳かい」
「まぁね…」

人影に月の光が差し込む。
其処に立っていたのは弓であった。

「アタシの力は攻撃には向かない。
 尚且つ中途半端に強いと来てる。
 アタシが六条とやらと克ち合ったら、
 力を食われて終了だろうね」
「敵に餌をやる様なもんか…」
「そう云う事。
 だからこの手でしか支援出来なかったんだ」

弓には見えていたのだろう。この未来が。
平家の血を色濃く受け継いだ者だからこそ判る【未来】。

「寿星君達はちゃんと受取ってくれた様だね。
 この街の命運を握る物の正体を」
「アンタ、何処でそれを?」
「ウチの実家で眠ってた物さ。
 何故かアタシしか其奴が収められてた箱を開けられなくてね。
 今思えば、アタシが認められた証拠だったんだろうけど」
「時を読む力、って奴か。成程な」
「で、君はこれからどうするつもり?」
「取り敢えず雲隠れの続きかな?
 六条には面がバレてるから」
「そうかい。それじゃ気を付けて」
「…一つ、良いかい?」
「何だい? アタシが答えられる範囲じゃないと困るよ」
「十六夜は…どうなる?」
「それを決めるのは…アンタ達次第だ。
 今はそうとしか答えられない」
「そうか……」

弓の言葉に鳴神は落胆の色を浮かべた。

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SITE UP・2014.12.23 ©森本 樹



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