翌日から八乙女本家での文献漁りが始まった。
家出をしていたと云うにも関わらず、
神楽が両親から咎められもせず
乾月達ですらスンナリと
奥の書物蔵に通された時は正直驚きだった。
『切迫している状況は
流石に本家も気が付いてたって事かな?
それとも一連の家出も【修行】の一環だったのかも。
彼女が【祭巫女】の自覚を持つ為の……』
歴史の長い八乙女家だけに、
その所有する文献の数も尋常では無い。
棚に所狭しと詰まれている巻物の山を見ただけで
寿星は目を回して倒れそうになる程だった。
「この中から探していく訳だが…っと、失礼」
乾月は懐の携帯電話を取り出して着信元を確認する。
そして一人頷き、携帯を懐に戻した。
「済まない、私は一旦 席を外すよ。直に戻るから」
「解りました。私達は作業に入ります」
「力仕事なら遠慮なく寿星を使ってやってくれ」
「えっ? ちょっ! 師匠っ?!!」
慌てる寿星に軽く手を振りながら、
乾月は足早に蔵を後にした。
* * * * * *
八乙女家本家の裏口。
壁を背に立つ男の姿を確認し、乾月は笑顔で近付いて行く。
「よく此処が判ったね、鳴神」
「師匠。俺の情報網を甘く見ないで欲しいな」
「いやいや、また腕を上げたから喜んでるんだよ」
「…どうだか」
「で? 此処迄態々出向いたには理由が有るんだろう?」
それまで笑みを浮かべていた鳴神だったが、
急に表情を強張らせた。
「東の【上坂神社(かみさかじんじゃ)】、祠が崩壊してた」
「何だと?」
「確かこの街を守護する【四神結界(ししんけっかい)】の要だったよな?」
「そうだ。お前達にもそう指導してきた」
「南の【稲生神社(いねなりじんじゃ)】もこの間やられた。
犯人は同じ奴か」
「そう考えるのが筋だろうな。
【四神結界】を破り、街を崩壊させる…か」
「四神と言うからには後2か所在るんだよな? 何処だ?」
「…北と西に関しては不明なんだよね。
結界の楔たる祠が存在しない」
「守り様がねぇな」
「まぁ、逆に考えなよ。
隠してあるからこそ簡単には破壊出来ない、とか」
「お気楽な考えだこと」
鳴神は火を点けずに煙草を咥えるとそのまま口で弄んでいる。
彼なりに苛立ちを隠そうとしているのであろう事は
師匠である乾月には手に取る様に理解出来た。
「どんな理由であれ、
4つ在る内の2か所が潰されたのは事実だ。
大昔から張られてる【四神結界】も
その効力は半減してるだろうな。
どうするんだ? 師匠。
結界の張り直しなんざ出来るのかよ?」
「あれは独特の張り方をしてるから、
そう簡単には行かないだろうね」
「じゃあどうするんだよ?」
「まぁまぁ。取り敢えず張り方に関しては
此処のお宅に資料が残ってないか
目下総力を挙げて検証中だから」
あくまでもマイペースを維持する師匠、乾月に対し
流石の鳴神も苦笑を浮かべるしかなかった。 |