一時の平和

鳴神との決闘後 事件らしい事件も起こらず、
街は平和そのものだった。
依頼も入らず、朔耶と寿星は
普通の若者(?)らしい生活を過ごしていた。

「平和…ッスねぇ。表向きは」
「まぁな」
「兄ぃ、どうしたんスか?」
「いや、何でもねぇよ」
「本当に?」
「強いて言うなら」
「ん?」
「お前以外の奴と歩きたいなぁ〜って」
「…失礼な」
「だっていつもお前なんだもん」
「じゃあデートでもするんスか?」
「…そうだな。相手が居ればな」
「誰と?」
「う〜ん、取り敢えずは…十六夜かな?」
「何で其処で十六夜?」
「変か?」
「……(変だ)」
「誤解すんなよ。彼奴に街を見せてやりたいだけだ」
「…本当かなぁ〜?」

【デート】の相手に同性を指名すると云う発想がそもそも想定外。
枠に嵌らない所が実にバイセクシャルな朔耶らしい。

「兄ぃ、ソッチの道に目覚めたのかと思った」
「あん?」
「…冗談ですけどね。
 そんなに気になるなら、今度デートに誘ったらどうッスかね?」
「十六夜をか」
「今の話の流れで他に誰が居るんですか?」
「そうだよな」

嫌味を込めて送った寿星の発言だったが
朔耶は意味深にニヤッと笑みを浮かべるだけであった。

『兄ぃ、マジでソッチに目覚めたかも…』

何故か自分の身の危険を感じ、
背中をゾクッと震わせる寿星であった。

* * * * * *

一方その頃。

「王手」
「…相変わらず容赦が無いな、十六夜」
「お主の手が甘過ぎる」
「これでも負け無しだったんだ。お前と打たなくなってからは」
「敗北の理由にならぬぞ、乾月」

朔耶の部屋を訪れた乾月は十六夜と将棋に興じていた。
これで7戦目だが、乾月は1勝も出来ず仕舞いだった。

「のぅ、乾月」
「ん?」
「お主は仕事もせずに何をしに来た」
「何って…将棋だ」
「私と将棋を打つだけで此処を訪れた訳では有るまい」
「…お前のそう云う洞察力には ほとほと感心するよ、十六夜」

徐に愛用の扇を取り出し乾月はそっと口の前に宛がう。

「【妖刀】の反応を感じないか」
「【妖刀】?」
「あぁ。今この街に3本の【妖刀】が存在しているのは
 既に確認出来ている」
「私の【虎徹(こてつ)】、お主の【兼元(かねもと)】、
 そして鳴神の【村正】…だな」
「御名答」
「それ以外の【妖刀】の気配…ねぇ」
「私は1本の気配を感じ取った」
「1本? 2本では無いのか?」
「…やはり、お前の検知力の方が上回っていたか。
 1本にしては力が大き過ぎると思った」
「私を試す様な物言いをするでない、乾月」

呆れ顔の十六夜に対し、乾月は苦笑で返した。

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SITE UP・2013.12.01 ©森本 樹



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