「朔耶」
乾月が去って暫くしてから、十六夜はふと声を掛けた。
その表情はやはり重く、鋭い。
「お主も、【退魔】の仕事を請け負うのか?」
「一応ね。
本業はカメラマンって事にしてるけど」
「キャ、メラ…?」
「カメラマン。あ、カメラって知らないか?」
「魂を吸う機械の事であろう。それ位は知っておる」
「…違うんですけど」
大昔の迷信を何故か信じているらしい。
本当に十六夜は一体幾つなのだろうか。
「で、それがどうしたんだ?」
「一人で請け負っているのか?」
「今は寿星と組んでるよ」
「そうか」
「そっち方面じゃ大先輩みたいだな、お前。
あの師匠と組んでたって言うんだから」
「……」
「なぁ、十六夜」
「何だ?」
「一つ、聞いても良いか?」
「質問の内容にも由る」
「じゃあ、年齢…幾つ?」
「歳か?」
「あぁ」
「200と50は越えておるな」
「200と50…って、250歳っ?!」
「その位迄は数えておったが、流石に面倒になってな。
今は幾つになったか等覚えておらん」
「…俄かには信じられねぇ話だな」
「ならば、信じなくても良かろう」
「そうは行かねぇよ」
「何故?」
「だってさ。折角お前が話してくれた事だぜ。
俺は何が遭ってもお前を信じる」
「殊勝な事だな」
「そうかぁ〜?」
十六夜は小さくフフっと笑みを漏らした。
やはりその一寸した仕草でさえも
何処と無く気品を醸し出している。
「だがな、朔耶」
「ん?」
「裏家業で請け負うとしてもだ。退魔を甘く見てはならんぞ」
「十六夜…」
「【魔】は事も無げに人を喰らう。時には仲間を、そして家族を。
【魔】に喰われし者は、新たな【魔】と成り お主達に牙を向く。
その時、お主ならばどうする?」
「…その時、か」
「考えておく事だな」
「…解った」
今迄はそれ程重くは考えた事等無かった。
自分達が担当した仕事内容も
恐らくはそれ程危険な類では無かったからだろう。
だからこそ、自分よりも遥かに長く
退魔業に携わっているらしい十六夜の言葉には
其処彼処に重みと悲しみが滲み出ていた。
「俺としては、お前と一緒に組めたら最高かな?
とも思ってるんだが…
余り気乗りしてないみたいだもんなぁ〜」
「ワシとて好き好んでこの生業をしている訳ではない」
「…不可抗力?」
「そう受け取ってもらっても結構だ」
「…そっか」
少しは解り合えそうな気がしていた。
だが、十六夜の心の扉を開くにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
朔耶は青空の見える窓を見上げてそう思った。 |