深い、深い闇の中。
胎動が聞こえて来る。
光が存在しない筈の空間で
十六夜は一人、漂っていた。
「光と闇は表裏一体」
闇に漂いながら、十六夜は呟いた。
静かな空間に、彼の声が響く。
「光を拒絶する事は出来ぬぞ、百鬼夜行」
返事は無い。
だが、百鬼夜行にも意思は存在するのか
胎動のリズムが激しくなった。
「聞こえるか、六条。我が兄上よ。
この恐怖、この悲しみが貴方の正体か」
今 自分が何処に立っているのかも掴み難い空間で
十六夜は難無く足をつけて立ち上がった。
「終わらせようぞ、この因果」
右手で握り締める勾玉の宝珠が
朔耶の【陽の陰陽鏡】と同じ様に輝き始めた。
それに連動するかの様に
彼の左胸に存在する【陽の陰陽鏡】が銀色の光を放つ。
そして。
黒一色の空間を引き裂く様に現れた一筋の光。
十六夜はその正体に気付いていた。
満面の笑みを浮かべ、歓迎する。
「待っておりましたぞ、聖獣 白虎」
『神子よ。その声に応える時が来た。
さぁ、我が背に』
光は少しずつ、虎の姿に変化していった。
白虎。
火産山で眠りに就いていた、西の聖獣。
祭巫女の二人の演舞に籠められた願いを聞き入れ
こうして今、十六夜の前に姿を現した。
白虎の咆哮が響き渡る。
その声が聞こえるのか、百鬼夜行の動きが変化した。
* * * * * *
「百鬼夜行が…苦しんでいる?」
その変化にいち早く気付いたのは神楽だった。
百鬼夜行は大蛇の様な体を左右に激しく振り出した。
時折、尾の部分を地面に叩き付けている。
「あの光を食ってからだ。明らかにおかしい」
「じゃあ…十六夜は無事なのか?」
寿星は再度襲い掛かって来る飛翔体を
今度は比礼で撃ち落としていた。
自分が用意した呪符は既に使い果たしている。
慣れぬ比礼での攻撃だが
その破壊力は呪符を遥かに凌いでいた。
ただその分、疲労も激しくなっている。
「寿星! もう一人で頑張らなくても良いから!」
「私達もおります。共に戦いましょう!」
「神楽ちゃん、繊…。ありがとうな!」
三人に襲い掛かる飛翔体を連携して倒す。
十六夜のアドバイス通り、この場所は
寿星や神楽にとっては戦い易いらしい。
「見て!」
繊は百鬼夜行の動きが突然止まった事に気付くと
慌てて二人に声を掛けた。
「百鬼夜行か…止まってる?」
横倒しになった巨体。
そして、無数の光がその体の内側から漏れ出ていた。
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