十六夜は迫り来る巨大な影の塊と相対していた。
様々な声が聞こえて来る。
呻く様な、泣く様な、叫ぶ様な様々な声。
「この姿を目にするのは流石に初めてじゃな」
十六夜はそう言うと、フッと笑みを浮かべた。
嘗て祖父が相対した負の化物。
千年の時を経て、その孫である自分が戦う事となる。
祖父が見た予知夢の通りに。
「だが、私は独りに非ず」
十六夜は静かに右手の数珠に念を送り始めた。
それと共に光り輝く【陰の陰陽鏡】。
「我が声に応え給えよ、麒麟」
やがて、数珠自身から眩い光が放たれ
周囲がその光に埋め尽くされていった。
* * * * * *
「っ!」
「朔耶? 大丈夫か?」
「はい、大丈夫です 師匠。
…【陰陽鏡】が反応してる」
「いよいよ相対したな、十六夜が」
「……行こう。
俺達には立ち止まっている時間等無い」
迷いを断ち切る様に歩みを進める朔耶。
その後姿を見ながら乾月と鳴神は笑みを浮かべた。
「もう心配は要らないな。
朔耶も随分と逞しくなって」
「うかうかしてると置いて行かれるぜ、師匠」
「それは拙いな。
雑魚はとっとと蹴散らすか」
「あぁ。そろそろ本丸だからな」
「気を引き締めていくぞ、二人共。
間も無く帝の間だ。
其処に必ず、六条は居る」
朔耶の声に、二人は力強く頷いた。
* * * * * *
光が静まっていく。
寿星は目を凝らしながら十六夜を見た。
本来ならかなりの距離と木々の障害で
見えない筈の彼の姿が手に取る様に分かる
「数珠が…、形が変わってる……」
円形の水晶で作られていた筈の十六夜の数珠。
その球の形状が明らかに変わっていた。
一つ一つが勾玉の形に変化していたのだ。
「三種の神器の一つ。
鳴神の兄ぃの予測通りだったんだ…」
数珠、勾玉の宝珠はその真なる姿を見せた。
「百鬼夜行!」
通る声で十六夜が叫ぶ。
「お主の狙いはこの勾玉であろう!」
百鬼夜行は鎌首を上げて不気味な雄叫びを放つ。
十六夜の目は百鬼夜行を捕らえたままだ。
「喰ろうてみよ、百鬼夜行」
勾玉の宝珠を握り締めた右手を前へ突き出し
十六夜は百鬼夜行を睨み付ける。
百鬼夜行は唸りながら首を振っている。
「お主の闇の力が勝つか。
それとも我が陰の力が勝つか。
力試しをしてやろう」
百鬼夜行は唸り声を上げながら
勢い良く鎌首の振り、そのまま十六夜を丸呑みした。
「十六夜っ?!」
一部始終、様子を見ていた寿星は
この顛末に驚きの声を上げた。
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