ずっと…夢を見ていた。
自分が其処に居るのか。
それとも、其処に居る自分を
自分が見つめているのか。
気怠さの先に薄らと見える光。
その先に待つ者こそが…答えを知る。
* * * * * *
「あれ? 彼奴は?」
朔耶はふと気付くと、
平 朔耶と思わしき武士の姿を見渡したが
彼の姿は何処にも見当たらない。
「【村雨】、【虎徹】。
彼奴は、平 朔耶は何処に行った?」
『何処にって…なぁ?』
『解り易く言えば、
二つに分かれた魂が一つに融合したのですよ。
貴方の魂は今、完全な物となった』
「それじゃ、俺の中に?」
『そう云う事だな』
『彼は平 朔耶の姿をした貴方自身の記憶の一部。
それが【月】の目覚めを誘う要因の一つ』
「【月】の目覚め?」
『【陰陽鏡】は本来二枚一組。お分かりですね』
「陰と陽…。そうか、だから【月】なんだな」
【虎徹】は静かに頷いている。
彼の言葉通りだとすれば、その言葉の意味は。
「【陰の陰陽鏡】が出現するって事か」
朔耶の呟きに【村雨】は【虎徹】の表情を見つめた。
先程と同じく笑みを浮かべてはいるが
同意する言葉は発していない。
『まだ【正解】とは言えねぇかもな』
「え?」
『まぁ頑張って【正解】を見付けるこった。
なぁ〜に、お前なら自力で出来るって』
「どう云う意味だよ、【村雨】?」
【村雨】は朔耶の問い掛けに答えず
そのままその場から姿を消した。
「ったく、都合が悪くなるとこれだ。
良いよな、お前は!
【気】に戻ってしまえば良いんだし」
『主、起キル!』
リョウマの鋭い声に朔耶はすぐさま反応した。
十六夜がゆっくりとだが重い目を開け、
意識を覚醒し始めていたからだ。
「十六夜…」
朔耶はそっと優しく声を掛ける。
彼が混乱しない様に、と。
「十六夜、俺が判るか?」
「…さく、や…」
「そうだ。朔耶だ」
十六夜の声のトーンが少し違っている。
先程迄とは違う、少し低く落ち着いた声。
「もう大丈夫だからな。
お前は左足を怪我してる。それと胸部な。
今から火産山を下りて叔父貴の所へ…」
「……」
十六夜は何も言わず、そっと朔耶の頬に手を当てる。
そのまま数回、そっと撫でると静かに微笑を浮かべた。
朔耶は知っている。この仕草。
今ではない。
遥か昔、よくこうやって彼を励ましてくれた事を。
「御子…?」
恐る恐る、朔耶は口にした。
平 朔耶と同化した今だからこそ、口に出来る単語。
十六夜は静かに首を横に振った。 |